ホルムアルデヒドとシックハウス症候群

アルコールの酸化反応についての勉強の中で、「ホルムアルデヒド」が登場しました。

建築関係者には聞きなれた化学物質です。シックハウス症候群の原因とされ、建築基準法などで規制されている代表的な物質なのです。

これを機に、ホルムアルデヒドについて改めて調べてみました。

目次
  • ホルムアルデヒドとは
  • ホルムアルデヒドの建材としての使用
  • 人体への影響 ~シックハウス症候群~
  • 建築物に関するホルムアルデヒドの規制
  • 建材に対するホルムアルデヒドの拡散量に応じた区分
  • 規制の結果とさらなる課題
  • まとめ わたしたちができること
  • 参考サイト

ホルムアルデヒドとシックハウス症候群

ホルムアルデヒドとは

ホルムアルデヒド(Formaldehyde)は有機化合物であり、刺激臭を持つ無色の気体です。メタノールを酸化させると得られる物質で、さらに酸化が進むとギ酸となります。水に溶けやすく、特に37%以上の水溶液はホルマリンと呼ばれます。あの理科の実験室にあった生物標本の瓶に入っている液ですね。

ホルムアルデヒド

ホルムアルデヒドの建材への利用

ホルムアルデヒドは多官能性の(複数の官能基を持つ)化合物であれば簡単に重合体(ポリマー)を生成できるという性質があります。そのため、様々な工業製品に利用されています。特にホルムアルデヒド系樹脂は安価に大量に製造されています。そして接着剤、塗料、防腐剤などにも展開できることから、建築材料としても広く使用されてきました。例えば合板の接着剤として使われる尿素樹脂(ユリア樹脂)は尿素とホルムアルデヒドを縮合反応させて作られる合成樹脂です。ほかにもフェノール樹脂、メラミン樹脂なども一般的です。こうしたホルムアルデヒドを含む合板は、壁、天井、押し入れ、フローリング、家具など、室内空間にある多くの製品材料に使用されています。

例)ユリア樹脂の生成

人体への影響 ~シックハウス症候群~

ホルムアルデヒドは、いわゆる「シックハウス症候群」の原因物質のひとつとして知られています。建材、家具などから空気中に放出されることがあり、濃度によっては人体へ悪影響を及ぼします。室内濃度が100μg/㎡(0.08ppm)を超えた場合にシックハウス症候群を引き起こす原因となるとされています。主な症状は、めまいや頭痛、吐き気、喉の痛みやせき、鼻水、皮膚炎など、人によってさまざまです。

建築物に関するホルムアルデヒドの規制

〇建築基準法

建築基準法では、2003年からシックハウス対策にかかる規制が制定されました。このうちホルムアルデヒドに関する規制としては、以下の三点があります。

  • 内装の仕上げの制限:内装の仕上げに使用するホルムアルデヒド発散建築材料は面積制限を受けます。
  • 換気設備の義務付け;居室を有する全ての建築物に機械換気設備の設置が原則義務付けられています。
  • 天井裏等の制限:天井裏等は、下地材をホルムアルデヒドの発散の少ない建築材料とするか、天井裏等も換気できる機械換気設備を設ける必要があります。

〇建築物における衛生的環境の確保に関する法律(通称:ビル管理法)

特定の用途・面積以上の建築物においては、ホルムアルデヒドの濃度基準が「1立方メートルにつき0.1㎎(0.08ppm)以下であること」であることを調査によって確認し、空気調和設備の維持管理に努めなければならないと定めています。

〇厚生労働省指針

厚生労働省では、ホルムアルデヒドを含む13の化学物質について、室内濃度指針値を設定しています。

建材に対するホルムアルデヒド放散量に応じた区分

建築基準法における規制に対応するため、建材から発生するホルムアルデヒドの放散量(または放散速度)に応じて等級を区分しているマークが定められています。これはF☆☆☆☆などと表されるもので、国土交通大臣認定、日本農林規格(JAS)、日本工業規格(JIS)などに基づいて表示されます。国土交通省告示で規制されている材料については、F☆☆☆☆は居室で使用面積の制限なく使用可能なもの、F☆☆☆やF☆☆は使用面積の制限を受けるもの、表示がないものは使用禁止となります。

規制の結果とさらなる課題

このような対策の結果、国土交通省の調査によると、新築住宅でホルムアルデヒドなどの室内濃度指針値を超えるケースは急減しています。この規制は一定の成果を挙げたといえるでしょう。

しかし実際に、新築住宅の室内空気中化学物質を測定すると、通常百種類以上の化学物質が検出されるそうです。その中では、ホルムアルデヒドなどのかつてシックハウス症候群の原因とされた物質の濃度はかなり低いのです。でもその代わりに、規制の対象ではない物質が多く検出されています。それらは規制の対象ではないとはいっても、高濃度になれば何らかの健康被害が懸念されます。

どうしてこのように多くの物質が検出されてしまうのでしょうか。一つ原因として推察されるのは、先の13種類の化学物質に規制がかかったために、建設現場で代替物質や代替建材が使われるようになったことです。例えばホルムアルデヒド樹脂の代わりに酢酸ビニル系樹脂が使われるといった具合です。規制→代替物の使用→新たなシックハウス、といういたちごっこが続いているという見方をする専門家もいます。

また、シックハウス症候群の原因は建材からだけとは限りません。規制対象になっていない、家具や生活雑貨、じゅうたんなどにもホルムアルデヒドなどの物質は含まれています。さらに、ホルムアルデヒド以外にも、芳香剤や洗剤から放散される別の化学物質や、ホコリやカビ・ダニなどもシックハウスの原因とされています。

今でも、国内でのシックハウス症候群とみられる患者数は年間100万人を超えているといわれているのです。

まとめ わたしたちができること

ホルムアルデヒドは、シックハウス症候群の原因物質とされ、建材などへの使用に対して規制が進められてきました。その結果、新築建物の室内におけるホルムアルデヒドの気中含有濃度は著しく減少しています。

ただし、規制されていない家具や生活雑貨などからの飛散、また規制対象外の化学物質、カビやホコリなどが起因するとみられる健康被害は未だに起こっています。

シックハウス症候群を予防するためになにができるでしょうか。

まず、当たり前のことですが、化学物質の発生源をできるだけ減らすことが必要です。住宅を改修したり、新たな家具を購入したりする機会がある方は、専門家任せにするのではなく、実際に建材のF☆☆☆☆マークや、安全データシート(SDS)の記載を確認してみるとよいと思います。また、国内で製造される家具や生活雑貨には、業界ごとにホルムアルデヒドに関する規制を設けていることがありますので、規制があるか、認定を受けている製品かをチェックすることができます。製品に認証マークがついている場合もありますし、使われている化学物質について説明がされている製品紹介サイトもありますので、購入前にチェックしてみましょう。

ただし、こうした注意を払ったとしても、化学物質をすべて生活から排除することは実質不可能だと思います。単純な結論になりますが、やはり日頃から適切な換気を行うことを心がけたり、換気設備を清掃したり、生活環境をできるだけ清潔に整えたりする、ということが最も効果的な対策と言えるのではないでしょうか。

参考サイト

Wikipedia

国土交通省

厚生労働省

一般財団法人日本繊維製品品質技術センター

一般財団法人東京顕微鏡院

吉野石膏

日本住環境株式会社

日本建築仕上材工業会

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