前回に引き続き、屋根防水について書きます。
屋根防水の一般的な方法として以下の4種類が挙げられます。
- アスファルト防水
- シート防水
- FRP防水
- (ウレタン)塗膜防水
屋根の材質や漏水の状況、気象条件、周辺環境などによって工法を選定します。
このうちのひとつ、塗膜防水について、展示会場で実演しているブースがありました。
手に乗るサイズの型に防水材を吹き付け、直後にその部分を触らせてもらったのですが、数十秒で固まってしまっていて驚きました。
通常のウレタン防水は数日間の養生期間が必要とされていますので、驚異的なスピードです。
この超速硬化にはどんな技術が使われているのか、調べてみました。
特許出願公開番号:特開2022-158122
前回はコンクリート屋根への防水でしたが、今回は金属屋根に施す防水についての特許明細書でした。
展示会場で見た製品そのものの特許が見つけられなかったため、これは別の製品に使われている技術の特許明細書です。
この明細書の中では防水層は何層か塗り重ねられていて、その層の構造がポイントとなっています。
層の中でも特徴的なのは樹脂層です。一般的なウレタンではなく、「ポリウレア樹脂」を使用しているのです。
あまり聞きなじみがなかったので検索したところ、
このポリウレアが防水層の超速硬化と関連があることが分かりました。
「ポリウレア樹脂とは?ポリウレタンとなにが違うのか」という観点で調べてみました。
ポリウレアの構造
ポリウレタンとポリウレアには共通する主剤成分があります。
それがイソシアネートです。イソシアネートはR-N=C=O構造を持つ化合物のことで、様々な種類があります。
出典:Wikipedia
ウレタンとウレアとの違いとなっている部分は、主剤成分のイソシアネート基に結合する分子です。
ヒドロキシ基が結合するとウレタン結合を形成しポリウレタンが、
アミン基が結合するとウレア結合を形成しポリウレアができます。
ポリウレアのすごいところ
ポリウレアの特徴の中で、ポリウレタンとの違いが顕著な点について挙げたいと思います。
まずメリットとして3つ書きます。
硬化が早い!
まず第一に、展示会で見たとおり硬化スピードが非常に早いことが言えます。
ポリウレアがすぐ硬化するのは、その化学反応と硬化メカニズムによるものです。
イソシアネートとアミン基を含むポリオールは、混ざると即座に反応し、短時間で高分子網目構造を形成します。
これはイソシアネートとアミンの反応がとても高く、反応エネルギー障壁が低いためです。
またウレア結合の形成は放熱反応のため、一度反応が始まると生成される熱がさらなる反応を促進するため非常に効率的に反応が進みます。
確かに展示会の実演品を触った際、吹付直後のものはとても熱かったことを覚えています。
そしてほかの多くの樹脂とは違い、ポリウレアは室温でも迅速に反応し、触媒や外部熱源を必要としません。
この特徴により、建築材としてのポリウレアは、環境条件が厳しい場所での施工や、工期短縮、急速な修理が必要な場合にとても有利だと感じました。
強く、劣化しにくい
ポリウレアのすごい特徴として2つ目に、材料性能としての機械強度や耐水・耐水温性、耐候性、耐薬品性、耐摩耗性が非常に高いことを挙げたいと思います。
ウレア結合(N-C)とウレタン結合(C-O)を比較すると、ウレア結合のほうが強い結合力を持ちます。
そのためポリウレアは剛性に優れ、非常に高い耐摩耗性を持っているのです。
またウレア結合のほうが構造が細かいので、物質遮断性が高く、耐水性、耐薬品性、耐酸性に優れています。
こうした性質から、ポリウレアは防水工事だけでなく、配管などの防食工事、剥落防止工事などにも使われています。
そしてさらに、ポリウレタンがヒドロキシ基の存在により加水分解するのに対し、ポリウレアは空気中の水分と反応して劣化する心配がありません。
紫外線にも強くトップコートを塗る必要がないことから、施工性にも優れていると言えます。
VOCが発生しない
個人的にとても良いなと思ったことを3つ目のメリットとしてあげます。
それは、VOC(Volatile Organic Compound 揮発性有機化合物)を発生させないということです。
つまり有害物質を発生させない、そして臭気が出ないということでもあります。
例えば現場の周辺が住宅密集地であったり、食品を取り扱う店舗があったり、クリーンルームを持つ工場があったりする環境下で、VOCの発生に神経質にならざるを得ない状況もあると思います。
そのような場所でウレタン塗膜防水を施工することが難しい場合にも、ポリウレア防水の施工は可能です。
ウレタンは粘度や塗布後の流動性、乾燥時間の調整などの理由で溶剤を必要とする場合が多いです。
この溶剤にはトルエン、キシレン、酢酸エチルなどの物質が含まれることが多く、これらは光化学スモッグなどの生成原因として排出抑制が規制されている物質でもあります。
ウレタンは使用目的や特性に合わせて多くの調整が行われる場合が多いので、一般的にはこうした溶剤を添加して使われています。
対してポリウレアは無溶剤でも扱いやすい粘度、十分な強度、迅速な硬化を実現するため、溶剤を添加する必要がありません。
そもそも化学反応がどんどん進み溶剤が蒸発する前に反応が完了してしまうので、逆に溶剤を添加しづらい、添加しても意味がないということもあるようです。
現場の周辺環境への配慮や、環境汚染低減、健康被害の防止の観点からも、ポリウレアを採用することはメリットだと言えるでしょう。
ポリウレアを使うデメリット
このように非常に優れているポリウレアですが、採用する上でデメリットとなる点はあるのでしょうか。
まず第一に、コストがかかるという点があります。
材料単価でみても、ポリウレタンにくらべ性能と耐久性が高いため高価な材料となっています。
またポリウレアは非常に迅速に効果するため施工が難しく、適切な塗布を行うためには高い技術と特別な機器が必要となるため、施工費も上がってしまいます。
また修正の難しさもデメリットとして挙げられます。
一度硬化すると非常に耐久性が高くなるため、修正や再塗装が困難になります。
つまり後からの変更が必要になった場合に、追加の時間とコストがかかってしまうのです。
感想
新築建物はもちろんのこと、補修や維持管理の場面においてもポリウレアは非常に優秀な建築材料だと思いました。
ただ初期投資が高いという点がネックなので、費用対効果を比較しての採用になるのだろうと思います。
具体的に金額差がどのくらいになるのか?とても気になるところですが、まだ調べきれていません。
これは施工範囲や条件によって一概には言えないと思うのですが、具体的なプロジェクトで工法比較検討できる機会があれば調べてみたいと思います。